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米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(9)「いよいよ両院すり合わせ – ここからの展開?」

先週金曜日の夜中過ぎ、午前2時前後に上院本会議を通過し、米国税法改革は31年振りの実現に大きく近づいた。今後の焦点は細かい点で多くの差異がある下院案と上院案の一本化となるが、どんなところが争点となり得るか考えてみたい。

共和党指導部は両院一致案とする過程にそれ程時間を要さないと強気の姿勢を崩していない。本当にクリスマスまでに大統領署名に持ち込むつもりだ。下院は月曜日に上院との一本化協議を担当するチームを正式に任命するとしているし、上院案をそのまま下院が可決すべきと心の中では思っている上院も一応、協議に応じるチームを任命するとしている。下院から見ると上院と一緒に事を進めるのは厄介で「敵は上院にあり」という教訓を口にするものも居るくらいで、ここまで来て喧嘩別れにならないといいけどね。

上院案から余り逸脱してしまうと52議席のうち51議席が賛成に回って可決した上院案の微妙なバランスが崩れてしまうリスクが危惧されるので、最終的にはどちらかと言うと上院案に近いものになるはずだ。細かいところで差異は結構あるとは言え、逆の見方をすれば向かっている方向、赤字容認額等の骨子は同じなので調整可能な範囲内とは言えるんじゃないだろうか。Big-6によるUnified Frameworkが功を奏した(?)のかもね。

共和党指導部が可決を急ぐのはもちろん2018年の中間選挙を見込んだり、今年中に達成するとズッと公言しているという理由もあるけど、実はもうひとつ隠された理由(と言っても僕も知ってる位だから全然隠されてないね)がある。アラバマ州上院議員の補欠選挙だ。アラマバ州上院議員だったJeff Sessionsが司法長官に任命されたため、Luther Strangeが臨時で穴を埋めているが、その後手続き的に紆余曲折あり最終的に2017年12月12日に補欠選挙が開催されることになっている。アラバマはかなり保守色が強い州なので通常であれば共和党が議席を失うことは考え難いが、最終候補者となったRoy Mooreに11月頃から過去における複数のハラスメント疑惑がメディアで報道され、共和党指導部から参選を辞退するような要請があったりして様子がおかしくなっている。もしここで民主党候補のDoug Jonesが勝利でもしようものならただでさえ52議席しかなくて綱渡りしてる状態が更に1議席減って51議席と言う危機的な状況に陥ることになる。更にRoy Mooreと共和党指導部はどちらかと言うと敵対しているので、仮にRoy Mooreが当選しても嫌がらせと言うか既得権への見せしめ的に税法改革に反対するのではないかという懸念もある。ホワイトハウスのブルーベリークイーンのKellyanne ConwayはRoy Mooreは税法改革に賛成だと主張しているけど。何だかどうなるか分からないので余計な面倒を避けるためにはアラバマ州で新上院議員が就任する前に税法改革は片付けてしまいたいということとなる。

具体的な両院の法案内容の差異の中でも、個人所得税の個別控除をどこまで廃止し、何を温存するかは大きな争点だろう。上院案はSusan Collinsを取り込むため、最後の最後になって下院同様に$10,000を上限として不動産税の控除を認めた。一方、住宅ローン支払利息に関しては下院の方が$50万までの新規取得に限定するとしているのに対し、上院案は$100万までで、かつEquity Loan以外はOKと比較的寛大だ。日本から見ていると法人税20%だとかテリトリアル課税だとかが一大事に見えたり、法人税低減のタイミングが一年両院案でズレているので、この辺りのすり合わせに目が行きがちだろう。個人の個別控除はどちらかと言うと些細な変更に見えるかもしれないけど、有権者は皆自然人であり、選挙区の民意動向に敏感な議員たちが気にするのは逆にこの辺りの規定となる。ただでさえ、州や地方の所得税の個別控除廃止で、この手の控除を取っている有権者が多いNY、CA、NJ州の議員はディフェンシブになっているところ、住宅ローン支払利息までも低減されては、という想いが強いだろう。31年振りの大改革が住宅ローン金利の控除範囲に合意できないという理由でお流れになるリスクも十分にある訳だ。日本ではニュースにもならないかもしれないけど扶養子女控除金額なんかもその範疇だ。

次に前回のポスティングでも触れた自営業を含むパススルー経由で事業所得を認識している個人オーナーに対する税負担軽減の部分がどう落ち着くかも見もの。下院案ではパススルーされてくる所得は個人オーナー側で25%で課税されるというストラクチャーとしている一方、上院案ではパススルーされてくる事業所得そのものから23%を控除するという形を取っている。元々この23%は17.4%だったんだけど、Ron Johnsonらの尽力で控除%が上院可決直前に上方修正されている。

The Blue Print以来の外せない聖域かのように見えたAMT廃案が上院ではあっさり可決直前になって取り下げられている。税法の簡素化という観点から見るとこれはかなり逆戻りの感じだけど、Triggerメカニズムが予算調整法に準拠していないという判断が下された瞬間、AMTからの歳入を失う訳にはいかなくなったということなんだろう。オバマケア一部廃案に繋がる個人強制加入の実質撤廃も上院だけの規定だけど、これに反対する下院共和党議員は少ないだろう。

日本企業が恐れていた関連者からの仕入れ、その他の支払いに対する20%ペナルティー課税は幸いにも上院案には規定されていない。以前にも触れた通り、上院のBEMTは下院案に比べるとかなり手緩いというかもう少し普通の規定だ。

という訳で余りにStakeが大きい両院一本化プロセスでした。