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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT

新年明けましておめでとうございます!

NYCは12月中旬までは暖冬を思わせる気候(と言っても東京の冬よりもうチョッと寒い)が続いていて、昨年、一昨年同様に楽な冬となる気配で「さすが地球温暖化」と訳もなく油断していたけど、年末から一転して記録的な極寒となり、風がチョッと吹いたりするとSub-Zero、すなわち0度以下の体感温度となっている。0度を下回る位だったら大したことないじゃん、って言うのは早合点。ここでいう0度は華氏の話しだから日本風に摂氏で言えばマイナス18度レベル。相当寒い。一方南カリフォルニアは相変わらず季節感のない気候が続いていて極端に身が引き締まるマンハッタンに比べると気が緩む感じ。マイナス18度は引き締まり過ぎだけどね。

年明け木曜日はNYCでも結構な雪が降って学校は休校でオフィスもセミCloseのようなところが多かった。会計事務所は24・7オープンとは言え「自分で考えて慎重に対応して下さい」的なメールが前の晩にNYCとか気候に影響を受けそうなオフィスに所属している者に送られて来る。スタッフの安全に気を使うのと同時に、途中で転んでケガするとか何かあっても自分の責任ですよって言われているような気がしてチョッと免責条項的な側面も読み取れる。

で、翌日金曜日の朝、NYCの多くの高層アパートの1階ロビーに設置されているスクリーン(その日の交通状況とかどのユニット(=部屋)にFedExとかUPSが来ています、みたいなアップデートを表示するスクリーン)で地下鉄の運行状況が目に入ったのでチラッと見てみたら、遅延等で障害が発生しているラインとして、2, 3、5、6、 B、D、F、M、N、R、Q、Wってなっていた。これってマンハッタン走ってる地下鉄ほぼ全線?って一瞬愕然としたけど、よく考えてみると8th Ave系のA、C、Eシリーズ、またマンハッタンではクロスタウンっぽいL、7そしてGCとTimes Square一駅と短いので当然だけどS(=Shuttle)は大丈夫な様子。また同じBroadway/7thラインでも2と3はダメなのに1はOKとか、同じくLex Ave系も5と6はダメでも4はOKとか結構不思議。EYのオフィスはTimes Square駅の文字通り真上なのでハブのように多くの路線が集中してる場所にあるけど、Shuttleと7が大丈夫だとアクセスはまあまあかな。Broadway系のN、R、Q、Wが全てやられてるのは痛いかもね。UberもさすがにSurge Rateになっているだろうし、歩くのも歩道に前日の雪が凍って危険だし、Cabは肝心な時には捕まらないし、やはりここは自宅でミルクティーでも飲みながらサクサク行くのが正解かもね、って感じの年明けでした。

ミルクティーでサクサク行くにしても、根性でオフィスにたどり着いて22階のカフェでスタバのVeranda、Roast、Pike Placeから慎重に一番鮮度がよさそうな一杯を選択してサクサク行くにしても、今年は新しい税法の理解をしないといけない宿命が待ち受けている。Section 59A (BEAT)、965(留保所得一時課税)とか今まで存在しなかったCode Sectionが多く新設されたり、Section163(j)(支払利息損金制限)のように趣旨は似ていても内容は100%変わってしまっているものがあったり、Section 172(欠損金)のように規定内容大幅変更、というようなものが、503ページに亘るThe Tax Cuts and Jobs Act条文そのもので規定されている。難易度的に見るとやはりクロスボーダー系の部分が高いように思える。CFCおよび10%米国株主が存在する特定外国法人に対する留保所得一時課税、配当非課税、無形資産と低税率を利用した節税に網を掛けているGILTI、さらにFDIIとかBEAT、と代表的な新設規定を見るだけでもその詳細な理解、解釈には今後少なくとも一年はかかるような制度が連発されてる。

日本企業的には、米国傘下に外国法人を持っているケースは比較的少ないと言えるので興味の対象は、怖いもの見たさ的な観点からももっぱらBEATが一番だろう。なので税法改正内容の代表的な規定を「Unplugged」で突っ込んでみる最初のターゲットはBEATとしてみたい。

BEATのような規定が制定される背景だけど、異なる税率を持つ多くの国で事業を展開している多国籍企業からしてみると、グループ内で高税率国から低税率国にいろんな費用を合法的に支払うことでグループ全体の実効税率を大きく下げることができると言う算数的には中学一年生レベルで理解できるシンプルなカラクリがある。米国がダントツに世界最高法人税率を誇っていた従来の環境ではこのインセンティブは特に強い。35%で費用控除して、例えば10%の国で所得認識すれば、それだけで25の現金が浮くばかりか、グローバルで連結される財務諸表上の実効税率も低減する。更に受け取る側で所得認識しなくてもいいようなHybridな扱いが可能であればメリットは更に大きい。この点を徹底的に追及し続けて来たことが、州税込みで40%の法定税率の国に本拠地がありながら米国多国籍企業の財務諸表上の実効税率がティーンズだったりする単純な仕組みだ。

米国企業だけでなく、海外から米国に投資してくる所謂Inbound企業も同様で、日本以外の国から米国に投資する企業は敢えて米国には大きな機能とかリスクを持たせることなく、合法的に薄利としてグローバルベースでの実効税率を管理してきた。米国多国籍企業と比較しても本拠地が外国だからこの手のプラニングを講じる手法、選択肢もより広がることになる。この点、米国多国籍企業から見ると羨ましくてしょうがない状況となり、結果としてInversionという米国本拠地の米国多国籍企業が別の国を頂点とするグループに再編、M&Aを通じて変身してしまうという究極のプラニングとも言える「Inversion」に至ることになる。ここでひとつ当たり前とは言え忘れてはいけないポイントだけど、米国多国籍企業としてもこれらのことを米国の財務省を困らせるために行っている訳ではない。全世界で熾烈な戦いを強いられる多国籍企業として、出来の悪い米国税法にStuckしてしまっている中、自社の存続を掛けて自助努力で戦略を策定した結果と見る方が正しいだろう。

日本企業が米国マーケットを凌駕していた90年代前半には、多くのハイエンドな商品が日本から輸入されて市場で大きなシェアを持っている割には日本企業からの税収が少ないという米国財務省の認識が強くあった。財務省は、これは日本企業がシステマティックに米国からBase Erosionを実行したり、移転価格をうまく利用して米国課税所得を圧縮しているに違いないと考えていた。そういう発想になるのは、米国であれば企業が当然そういう行動に出るためで、そのような発想がないという推測は財務省側にはなかったんだろう。そのような危惧は1989年の昔のアーニングス・ストリッピング規定Section 163(j)や1993年のモダンな移転価格財務省規則に反映されている。面白いことに2008年に財務省が大掛かりな長期的なBase Erosionトレンドにかかわる実態調査レポートを取りまとめているが、そこでは徹底的にBase Erosionを実践しているのは日本企業のような本当の外国企業よりも元米国企業でInversionを通じて外国企業に成りすましているところでした、と締められている。日本の法人税率も世界水準から見ると高く、特に近年までは米国と同じ又はそれより高い水準にあったので、Base Erosionするにしても日本に所得が移管されるのでは意味ないしね。

従来の米国の多国籍企業によるBase Erosionに対する米国議会、財務省のアプローチは基本的に移転価格等の見地から支払いそのものが正当なものかどうかを検証する定性的なものが主だった気がする。アーニングス・ストリッピング規定は外国関連者からの過度のレバレッジを取り締まる定量的な対応なので別だけど。定性的アプローチは理論的というか経済的には正しい手法のような気もするけど、逆手に利用されて多くの所得を海外に流出させる手段として使われてきた経緯がある。例えば、移転価格のArm's-Length Pricing(ALP)モデルだと、機能やリスクを多く持つ主体に当然より手厚いリターンを与えないといけないけど、グループ内で誰にどのような機能やリスクを持たせるかというのは如何様にでも決めることができる。同様に実際にはカリフォルニアのクパチーノとかで開発している無形資産の法的な権利をどこに持たせるか、というのもグループ内で、世界地図にダーツを打ち込むようにアイルランドでも、バミューダでも好きなように決めることができる。

で、BEATのような発想が登場してくるのは当然の成り行きだろう。BEATの基本アプローチは定量的なもので、移転価格等の他の見地から海外関連者への支払いは一旦正当なものだというハードルを越えた後、その上でそのような取引の金額が過剰だと判断されるケースでは一部その恩典を否認して最低限の税金を支払ってもらいましょうというものだ。Base Erosionを徹底していない日本企業の多くから見るとBEPS同様に面倒なコンプライアンスが増えるというように映るし、BEAT導入の趣旨自体もそもそも余りピンと来ないような状況かもしれないけど、米国多国籍企業にしてみるとこれは大変、直ぐにサプライチェーンを再構築しなくては、ということとなる

次回は実際にBEATの規定、Section 59Aに関して。