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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)財務省のガイダンスプラン

Max Hata
なんだかんだとバタバタしている間に、始まったばかりと思っていた2018年も早くも2月前半になってしまった。その間、可決から僅か1月半とは思えない程、新しい税法三昧で、「これって本当にできて1カ月チョッと?」って不思議に思うくらい、59A、245A、250、951Aとか馴染んできた感じもある一方、条文は読めば読むほど理解が進むと言うよりも不明点が浮き彫りになってきている。

結構基本的な部分で、読む者により解釈が異なったり、適用のポジションが大手法律事務所、Big 4会計事務所の間でも意見が割れたりしていて面白い。今後、Noticeとか財務省規則でガイダンスが出されるまでは、立法趣旨も加味した条文解釈に基づいて各々の納税者がポジションを取っていくことになる。その意味では都合の悪いガイダンスが出る位だったらSubstantial Authorityに至るポジションがある前提で法文解釈していた方が有利かもね。

日本的な感覚だと、これだけの不確実性を伴ったまま既に大量の新税法が法的な効果を持っているという状況はチョッと不思議に思えるかもしれない。ここは日本と米国の立法プロセスの差異に因るところが大きい。憲法の三権分立の概念が実際に確立している米国では、立法は議会が行い、その時点で財務省を含む行政府が省令を検討するようなことはない。法律はあくまで立法府である議会で完結し、その後、条文そのものに「この部分はSecretary(ここで言うSecretaryは秘書ではなく財務省長官のこと!)に細部を規定する権利を委譲する」とされている部分のみ、そのスコープ内で財務省が規則を策定する権利を与えられる。で、必ずしも直ぐに財務省から規則が出てくる訳ではない。何年か経って忘れた頃に出てくる規則も多いし、法的な拘束力を持たない規則草案が公表されたまま塩漬けになっていることもある。今では懐かしくすら思える旧163(j)のアーニングス・ストリッピング規定も結局、30年近く規則は最終化の日の目を見ることなく、挙句の果てに法律そのものが撤廃されてしまった。この辺りは毎年同じタイミングが大綱が出て、その時点で省令まで落とされている日本のプロセスとは全然違う。

となると、そんな状況で納税者はどんな税務処理をすればいいのか、っていう質問を良く受けるんだけど、法文は文字通り読んで、また立法趣旨が分かればその範囲で合理的な解釈をして処理すればいいだけの話し。何でもかんでも法律を施行する側の財務省の意向を待つ必要はない。でも、後で税務調査の時点でIRSが納税者の取ったポジションに合意しないかもしれないじゃん、って思うかもしれないけど、それはもちろんその通り。その際に肝心となるのが納税者側の解釈に「Substantial Authority」レベルの確証度合いがあるかどうかという判断。

Substantial AuthorityっていうのはMore Likely Than Not(50%超)よりも低く、定量的に数値で図るのは容易ではないけど40%程度の確証度合いとなる。Substantial Authorityのあるポジションに関して税務調査でIRSが追徴をする場合、ペナルティーの適用がなく税額と金利を支払えば終わりとなる。なので仮に追徴という結果になってしまっても最初からコンサバな申告をして税金を自ら納めていたのと同じ状況に戻るだけと言える。ここの感覚も日本とは随分異なると思う。日本的には、社内評価も、外部アドバイザーの評価も、最初からコンサバにしていれば罰点はないけど、ポジションを取って後から追徴となると仮にペナルティーがなくても減点のイメージが強い。経済的には同じことなんだけど、これらの点でも結果としてポジションがあるのにそれを取らずに企業として損してるようなケースも多い。米国企業のTax Directorは税務調査で追徴があること自体でBlack Eyeとなることはないだろう(もちろん内容次第だけど)。また、法文が財務省に規則策定権を与えている場合も、その点に関して規則が実際に効果を持つまでは他の法文と同じように解釈をして臨むことに問題はない。財務省規則の策定権に言及されているからと言って、そのポジションに関して他との比較で異なる法文解釈アプローチを取る必要はない。

そんな背景なんだけど、先日水曜日(2月7日)に財務省が、ガイダンス公表必要性の面から優先順位が高いと思われる18項目を特定した「ガイダンスプラン」を公表した。これらの項目に関しては近々に、と言っても6カ月とかのスパンなんだと思うけど、順次優先的に財務省規則が策定されるようだ。優先順位の甲乙は個人を含む広範な納税者の関心を反映しているので、必ずしも日本企業のニーズに合っている訳ではないけど、一般の納税者がどの条項に関心を持っているのを図り知る上で興味深い。多国籍企業に対してBase Erosion対策を規定しているBEATは、全体から見ると若干特殊な規定という理由なのかもしれないけど、リストに特定されていない。国際課税一般という文言があるのでそこに含まれるのかもしれないけど。いずれにしてもBEAT適用時の不明点、特に過去から繰越NOLがあるケースの修正課税所得の算定法に不明点があるのは既に財務省側にも認識があるので、仮に優先リストから漏れたとしても、18カ月程度のタイムラインで比較的包括的なガイダンスが出てくるだろう。例題(Example)とか沢山載ってると助かるんだけどね。

18カ月とか随分気の長い話しに聞こえるかもしれないけど、BEATは2018年から適用なので、カレンダー課税年度の納税者でもBEATを反映した初めての申告書提出期限は2019年10月。なんで、申告書を出す頃までには大概の様子は分かるはず。やはり早急にガイダンスが必要なのは、2017年課税年度の申告書に既に影響がある特定外国子会社の留保所得一括課税だろう。まさしくその理由で12月末からNoticeというライトタッチでIRSが確認事項を公表している。既に2つのNoticeが出ているが、最低後1回はNoticeを出すようだ。

で、ガイダンスプランによると、法人税、事業課税に直接的に関連する条項で優先順位が高いとされているものは必ずしも多くない。支払利息損金算入制限の(新)Section 163(j)、動産の即時償却を規定したSection 168(k)、個人オーナーが自営業またはパススルーから認識する事業所得に対する20%の所得控除を規定したSection 199A、そして留保所得一括課税のSection 965。この965の部分に「その他の国際課税に関する税法改正」とあるので、これにBEAT、Anti-Hybrid、GILTI、FDIIなんかが入ってくるのだろうか。更にインバウンド系ではECIに従事するパススルー持分を外国人が譲渡した際の源泉徴収を規定しているSection 1446(f)も含まれている。

という訳で、次回こそBEATの話しに戻りたい。

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