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自動車保険

自動車保険の基本

アメリカでは保険は州ごとに規制されています。そのため、最低限必要な保険金額などが違ってきます。しかし、現実的には州が定める最低限の保険だけでは足りず、自分でそれよりも高額な保険に入ることになります。どのような場合に、どれだけ保険料が支払われるのかを理解するためには、保険のそれぞれの項目が何をカバーしているか確認する必要があります。

対人保険

対人保険(Bodily Injury To Others)は、自分の車が原因で起きた対人事故の損害を補償します。一般には医療費が対象ですが、それ以外にも被害者が受けた損害、精神的被害、訴訟費用などが対象になります。重要なのは、単に医療費を補償するための保険ではなく、賠償責任を補償するためのであることです。詳しくは「5.賠償責任とアンブレラ保険」で解説しますが、事故を起こして相手に賠償責任を請求され、それで自分の資産がなくなってしまっては困ります。そこで、自分の資産を十分に保護できる賠償金額にするべきです。 州によって規則が違いますが、おおむねBodily Injuryは強制的に数万ドルの保険に加入することが義務付けられています。しかし、これで十分とは言えません。むしろ少なすぎるために任意で上限を高くすることは必須といえます。州により、Bodily Injuryの賠償金額をそのまま引き上げることが出来る場合と、強制加入の金額は変更が出来ず、オプションとして賠償金額の上限をあげる場合があります。いずれの場合も、十分な金額に引き上げることが必要です。

対物保険

対物保険(Property Damage)は物損事故を起こした損害を補償します。例としては他の車に当ててしまった場合や、他の家に突っ込んでしまった場合です。州によっては最低でも数千ドルの保険への加入が義務付けられています。しかし、対人保険と同じように、最低の保険金額では足りない場合があります。高級車にぶつけてしまった場合、修理費も高額になりますし、建物や電柱を壊してしまったら、意外と高い費用が掛かります。対人に比べれば破滅的な損害にはなりませんが、自分の貯金などの資産が空っぽになってしまうのも困ります。十分な金額に設定しましょう。

医療費用保険

事故を起こした相手ではなく、自分の怪我に対する保険です。Personal InjuryもしくはMedical Paymentなどと呼ばれ、州によって強制の場合も、任意の場合もあります。注意しなければならないのは、自分の医療費は、通常の健康保険でカバーされるべきという点です。日本の健康保険の多くは交通事故の場合、自動車保険からの支払いを優先するようなシステムになっています。しかし、アメリカでは健康保険のほうが先に適用され、自己負担分などが自動車保険から保証されるシステムになっています。 そのため、しっかりとした健康保険を持ち、自動車保険の医療費はなくて構わない、もしくは強制加入の最低限の額で構わないというエージェントもいます。自分のためだけならそれでも構いません。しかし、誰か人を乗せることがある場合、後述の同乗者保険に注意する必要があります。

同乗者保険

アメリカの自動車保険で分かりにくいのは、同乗者に対する保険です。日本の保険とはシステムが違うため、上記の対人保険(Bodily Injury)ではカバーされない場合があります*1。州によりますが、同乗者のためには医療費用保険(Personal Injury)もしくは対人保険オプション(Optional Bodily Injury)を購入する必要があります。自動車保険を購入するときは、どの項目に同乗者への医療費、賠償責任が含まれるか確認し、必ず他の賠償責任と同額までカバーされるようにしましょう。

自損事故

自損事故保険は、自分の自動車に対する損害を補償します。もし他の車との事故であり、自分の責任がまったく無ければ相手(の保険)が修理費を負担します。しかし、自分の責任で事故を起こした場合、この保険が無ければ自分の車の修理費はもらえないことになります。責任の比率が100%相手になることは少なく、いくらかの責任がそれぞれに課されることのほうが多いのが実情です。このような場合はその割合に応じて、自分の車の修理費を負担しなければなります。また、自損事故などで相手がいない場合、100%自分の責任ですから、この場合も保険が無ければ自己負担となります。 この保険は日本とは違い、アメリカでは2つに分かれています。衝突保険(Collision)は他の車との事故の場合を補償し、車両保険(Comprehensive)はそれ以外の場合を補償します。衝突保険が補償するのは、自分の責任割合に応じた修理費や、州によっては相手が無保険だった場合の自分の車の修理費です。Limited Collisonという、相手の責任が50%以上だった場合のみ補償する保険もありますが、お勧めしません。 車両保険は、衝突以外の理由で車に損害があった場合を補償します。火災や盗難、動物に当たった場合などを補償します。アメリカでよくある問題は自動車の盗難でしょう。もし車両保険が無ければ、車を盗まれても何も補償されません。そこで、ある程度以上の価値がある車の場合は、必ず車両保険に入るべきでしょう。ただし、同じ車を買いなおせる金額が保証されるわけではありません。通常はその車の市場価値、つまり中古での価値になります。

無保険、保険金不足の補償

事故を起こした相手が無保険(Uninsured)だった場合や、十分な金額の保険に入っていなかった場合(Underinsured)に、自分や同乗者への損害を補償します。通常は相手の保険から賠償責任として医療費や休業補償が支払われ、それでも足りない場合、この保険の金額の方が多ければ、受け取れなかった差額が支払われます。 アメリカでは無保険車が1~2割程度あると言われ、また十分な保険に入っていない人も相当数に上ると見られています。もし、相手の保険が十分に補償しない場合は、相手を個人的に訴えて補償するように要求します。しかし、相手に資産が無ければ裁判で勝ったとしても実際の支払いを受けることが出来ない場合もあります。保険金額が十分でない人は一般に資産も少なく、その場合は泣き寝入りするしかありません。そういったことが無いように、十分な保険を自ら掛けておく方が賢明です。

その他の保険条項

自動車保険には任意で加入できる追加条項があります。牽引(Towing)は事故の有無に関わらず車が動かなくなったときに、牽引費用を支払ってくれます。緊急時対応サービス(Emergency Roadside Assistance)は路上で出来る簡単な修理(タイヤ交換など)の工賃(Labor)をカバーします。この2つは州によっては1つの条項になっている場合があります。この保険条項はAAAに加入していれば必要ないでしょう。 レンタカー費用(Daily Rental Insurance)、もしくは代替交通費(Substitute Transportation)は、車が修理中の間に借りたレンタカー代の一部や、公共の交通機関を使った費用を補償してくれます。補償額に比べて保険料が割高になるので、公共の交通機関を使える人や、家族や同僚と一緒に通勤できる場合などは不要でしょう。しかし、通勤に車がどうしても必要な場合はこの条項を追加するのも良いかと思います。 ガラス破損補償(Auto Glass Insurance)は、ガラスの破損を非常に低い免責額もしくは免責額なしで補償するものです。車両保険(Comprehensive)への追加保険ですので、車両保険への加入が必要となります。修理費が車両保険の免責額以下のために保険金が支払われない場合でも、この追加保険があればガラスの破損に限って費用を出してくれるものです。例えば車両保険の免責額が$500の場合、フロントガラス交換で必要な費用が$300だった場合、すべて自己負担になります。しかし、この条項を追加していれば、$500以下でも保険会社が補償してくれます。アメリカでは中央分離帯が低い高速道路もあり、対向車からの飛び石などでフロントガラスが破損することもありえます。この条項があれば、自己負担なし、もしくは少ない費用で交換することができます*2

保険料の節約方法

免責額の引き上げ

車両保険には免責額(Deductible)が設定されており、修理が必要な際にはその金額までは自己負担となります。その自己負担を増やすことで保険料を安くすることが出来ます。自分で負担できる程度の高めの免責額を設定すると良いでしょう。 免責額を高くするメリットは2つあります。1つは保険料が安くなることです。例えば車両保険(CollisionとComprehensiveの両方)の免責額を$500から$1,000に引き上げた場合、車両保険部分の保険料は20~50%ほども安くなります。 もう1つのメリットは保険金の請求をしなくて済む場合が増えることです。免責額が$500で、$600の修理が発生した場合、差額の$100を請求するために書類を揃えたり、保険会社や修理工場と連絡したりと煩雑な手続きをしなければいけません。もし免責額が$1,000なら、修理工場に支払うだけで済みます。安くなった保険料をしっかりと貯金しておけば、その程度の差額なら得になる場合が多いのです。

運転歴

過去に事故や違反がある場合、保険料が高くなります。逆に無事故、無違反であればその分、保険料は安くなっていきます。自分のためにも、金銭的にも安全運転はメリットがあるといえます。 しかし、アメリカに来て免許を取ったばかりの場合、アメリカでの運転歴がありませんから、高い保険料からスタートすることになってしまいます。そこで、もし日本の免許を既に持っているのなら、日本での運転歴を考慮してもらえないか、エージェントに相談してみましょう。日本の警察署から証明を取り、それを提出すれば認められる場合があります。 ただし、日本での運転歴はアメリカで最初に保険を掛けるときにしか使えない場合もあるようです。渡米して最初に車を購入する場合、あらかじめその州の規則をしっかり調べておくと良いでしょう。

割引条項の利用

自動車保険は州により規制されていますが、さまざまな割引制度も存在します。例えば会社などでまとめて加入するとグループ保険となって割引が適用される場合があります。また、エアバッグなどの安全装置や盗難防止装置がついていると車両保険が安くなります。 同じ保険会社で2台以上加入する場合や、1年の走行距離が規定マイル数よりも少ない場合、屋根の無い誰でも出入りできる駐車スペースではなく車両を車庫で保管する場合なども、割引が適用される場合があります。どういった割引があり利用できるのかを調べて最大限に利用しましょう。

不要条項の削除

車が古くなり価値が低くなった場合、車両保険を掛けないという選択肢があります。もし、事故で修理が必要になったら、自分で払える程度なら修理し、そうでなければ諦めて廃車にすると決めておくのです。車両保険は自動車保険の中でも割高な条項ですから、これで保険料はかなり安くなります。古くなってくると事故に遭わなくても、「修理費が○○ドル以上だったら、もう諦めて廃車にしよう」と思うことはよくあることです。そう思うようになったら、廃車にする理由が故障でも事故でも金銭的な負担は同じですから、車両保険をキャンセルしましょう。 また、小額の保険金のための条項も要らない人が多いでしょう。牽引やレンタカー費用の保険は自己負担で済ませることにすれば、これらの条項は不要です。

アンブレラ保険の併用

アンブレラ保険に加入すると、自動車保険の賠償責任(対人保険や無保険車条項など)は低い賠償金額で構わない場合があります。例えば今まで自動車保険で対人保険を$500,000まで掛けていたとします。アンブレラ保険で$1,000,000までカバーし、その条件として自動車保険の賠償金額が$100,000であった場合、対人保険をその金額まで下げることで、自動車保険の保険料を節約することが出来ます。アンブレラ保険には別に保険料が掛かりますから、全体としてその分の負担はあります。しかし、$500,000から$1,000,000へ賠償金額を上げるのは、結果としてそれほど負担が増えることにはならない、というのが重要な点です。

自動車保険の注意点

保険を掛けるときに保険料を先に考えてはいけません。保険料の安さで保険を選ぶと、肝心の補償範囲が自分に合ったものでなかったり、特別な場合しか保険金が受け取れないなど、保険の本来の目的を外れてしまう場合があります。まず、自分にとってどんな補償がいくら必要なのか、しっかりと判断するべきです。 また、補償範囲が同じで保険料が安いからといって、すぐその保険会社にしてもいけません。保険会社には格付けがあり、格付けが高い保険会社ほど経営状況が安定しています。保険金請求の際にトラブルになったのでは意味がありませんから、エージェントに過去の請求実績などを聞くなど、会社選びは慎重にしましょう。 日本と大きく違うアメリカの自動車保険の特徴は、州によって規制が違うということでしょう。そのため、強制保険だけではその州で発生した事故しか補償しないものがあります。絶対に他の州に行かないと言えるのであれば、州内だけの補償でも構わないかもしれません。しかし、実際には他の州に車で観光や仕事で行く可能性は常にありますので(ハワイ除く)、必ず州外でもカバーされる保険に入ることが必要です。 アメリカでは、窓ガラスを割って車内においてあるカバンなどを取る手口で、多くの盗難が発生しています。このとき、窓ガラスは車両保険に入っていれば補償されますが、ほとんどの場合、免責額以下の修理費なので、実際には保険金は支給されません。さらに、車内においてあったものは自動車保険の対象外ですので、まったく保険金が支給されません。個人の持ち物は住宅保険に入っていれば補償される場合もありますが、この場合も免責額があります。被害に遭わない様に注意する事が大切です*3
*1:日本の対人保険でも同乗者に支払われるのは「法律上の賠償責任」が発生したときだけのようです。それ以外の場合は任意保険で搭乗者保険が必要になります。
*2:私個人の経験で、2回、飛び石でフロントガラスの破損に遭いました。高速道路を乗る機会が多い人はこの保険条項は検討に値します。
*3:ガラスを割る手口はカバンや買ったばかりの品物を見えるところに置いていると被害に遭いやすいようです。